上棟式

地鎮祭から2週間後には上棟式である。

地鎮祭は夕方からであったが、現場監督から、

「当日は朝から棟上げ作業を行っています。クレーン車を使って一気にやりますから、良かったら見に来て下さい。面白いですよ」

と教えてもらった。

前の日は土曜日で休みだったので、棟上の前も見にいった。そこはまだ、コンクリートの枠があるだけの状態だったが、1階の間取りは頭に入っているので、どこがリビングか、どこが風呂場か、だいたいは分かる。

ちなみに僕の家は「ベタ基礎」というやつだ。
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幸い、JIOの事前審査で、地盤改良は必要ないと言われた。
建築請負契約の前の説明の時、僕の住んでいる地方では、地盤改良の可能性は45%くらいあるから、こればかりはもし必要となったら100万円くらいかかるが、その時の負担増は諦めて欲しい、と脅されていたので、検査結果で「地盤改良の必要なし」と出た時は、随分とホッとした。

上棟式のことを僕が子ども時分は、「建前」と呼び、子どもにとってそれは「餅撒き」を意味していた。今思えば、僕らの小学校時代は一戸建ての建設ラッシュだったようで、たぶん小学生の3~4年生くらいは、毎週のように餅拾いに行っていたような記憶がある。どこから情報が集まってくるのかわからないが、誰かが得た確かな情報を元に、紅白の丸餅を頂きに自転車を走らせた。小さな袋に入った餅と一緒に5円玉が入っていることもあった。

また建設現場は、子どもたちにとって格好の遊び場で、木材の切れ端とおが屑が貰い放題だったので、切れ端はおもちゃにして遊び、おが屑はクワガタの家となり、餅拾いは暗黙のルールで子どもたちの特権であったのが、いつの間にか大人が増えてしまい、体力に劣る僕たちはやがて、建前の興味も薄れ、もちろん、子どもはすぐに大きくなるから、それが楽しかったのは2~3年の間だったように思う。

そんな楽しかった思い出が多い建前が、大人になった自分が主役となって出来るのはなんとも感慨深い。

やっと元気になった息子も連れ、クレーン車を見に行く。
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車好きの息子は本物のクレーン車に大喜びだ。
コンクリートの土台から一気に柱を据え付け、屋根が上がっていく様子は圧巻である。僕は楽しくていつまでも見ていたかったが、あまりに帰ってこないと妻に怒られそうなので、昼飯前には一旦家に戻る。
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夕方、今度は家族4人で、上棟式に出席する。

棟梁、頭、監督、営業に専務さんも現れ、近所の人にも参加してもらい、神野さんの司会のもと、上棟式が始まった。

「本日はお忙しい中、上棟式にお集まり頂き、ありがとうございます。司会は私が務めさせて頂きます。それでは、始めに施主様からのご挨拶をお願いします」

当たり前のことだが、施主とは私のことである。
キンチョーの一瞬だ。

「本日はお忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございます。
ここまで来られましたのもKホーム様を始めとする、関係者皆様のお陰です。

そしてこれからが本番です。怪我だけには十分に注意して、一緒にいい家を建てて行きましょう。簡単ではありますが、ご挨拶に代えさせて頂きます」

というようなことを言ったと思う。


続いて専務さんが、

「本日は上棟式ということで、まことにおめでとうございます。私たちとは土地からのお付き合いをさせて頂いておりますが、家の建築は私たちプロですから、どうぞご安心して、プロにお任せ下さい。必ずいい家を建てて参りますので、今後ともよろしくお願いいたします」


私は製造業に従事するサラリーマン。なので「労災」だけは非常に過敏だから、「怪我だけはしないように」という言葉は、どうしても挨拶に入れたかった。

続いて、2階の天井付近に地鎮祭用に作られた、神棚に向かう。当然、ハシゴを使って登っていく。登ったのは、棟梁、頭と私の3人。
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上棟式の前日に、棟梁から2階の上まで登るかと聞かれ、ちょっと怖気づいた僕は、遠慮しようと思ったのだが、「一生に一度だよ」と言われて、登る決心をしたのだった。

実は子どもが生まれてから、何故か高所恐怖症になったのである。
独身の時や子どもを授かる前までは、高いところなんてへっちゃらで、楽しくさえあったのだが、何故か怖くなった。


実際に登ってみて、「一生に一度」の意味が初めて分かった。
僕は2階の天井に登っている。つまりは、3階建ての高さに登っているのと同じ高さだ。
それはほとんど屋根の高さと同じだから、周りに3階建ての家がない僕の近所では、かなり遠くの方まで見渡すことが出来る。きっと天気がよければ遠くの山まで見通せたことだろう。


家が出来たら、屋根に上らない限り、この景色を見ることは出来ない。だから、「一生に一度」。

下にいる監督の掛け声のもと、二礼、二拍手、一礼をする。お参りが終わると、神野さんから声がかかった。

「どうですか、登った感じは?」

「とっても気持ちいいです。最高です」

と返すと、下から見守る人たちから、笑い声が響いた。


高所恐怖症は微塵もない。
僕が怖いのは高いところ、ではなくて、「子どもと一緒にいる時の高いところ」であることにも気が付いた。

子どもと一緒に3階のベランダに出るのも怖い。それは「子どもが落ちたらどうしよう」という不安なのであることを知った。

場所を1階の特設会場に移し、乾杯をする。


しばしの談笑のあと、棟梁、頭、監督にお礼を渡し、関係者の皆様には、菓子折りを渡し、ご近所の方々には、お洒落な小袋に入った、お餅とお菓子の詰め合わせを配った。

時代が変わり、屋根からの餅撒きはなく、飲酒運転防止のためにウーロン茶とオレンジジュースの乾杯となっても、上棟式とはなんともうれしいものであった。

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